知り合いに見られていい様なBlogが無いことに気付いた……。
ので、SSを格納します。
2011年 2月20日 |
スキビSS 「chocolate lilly」
玄関まで届く甘い匂いとビターな匂い。 その香りは、同一なようで非なる気がして、少し頬がにやける。 蓮の誕生日から数えて3日後。今日は13日イベント前日というやつだ。 蓮が帰宅すると、広いキッチンで所狭しと動き回るキョーコの姿があった。 「ただいま」 「あっおかえり!」 そう短く、蓮が声を掛けると、キッチンからヒョコッと顔を覗かせた。 何時もなら、鍵を開ける音がするとエプロンで手を拭きながら慌てて出て来るのに、今日はそうとう忙しいらしく、真っ白なエプロンがひらひらと揺れている。 その様を遠目に見つつ、鞄をソファーの決まった場所に置き、これはチャイムを鳴らしてからの方が良かったかなと、苦笑いを浮かべつつ蓮は自室で着替えてリビングへ戻ると、いつの間にと思う速さでダイニングテーブルに夕食を用意しているキョーコが目に入った。 「もうすぐ夕食の用意できますよ」 「じゃあ、手を洗ってくるね」 内心は楽しみなくせに、にこやかな笑顔を刻んで席を立つ。 手を洗いながら、目が笑ってないことに気付き、嘆息した。
蓮が席に着くと、キョーコはもうエプロンを外し、椅子に掛けていた。 部屋に漂うカカオの香りは滑らかな白い手から更に匂い、蓮はこのまま食べてしまいたい衝動を押さえながら、目の前の湯気を立ち上らせるお味噌の匂いのアンバランス差に、必死で縋り付いた。 迎え合わせに腰掛けると、何時ものようにキョーコに微笑みかけて、いただきますの挨拶をする。蓮は良く嚙みつつ、早めに食事を済ませてしまおうと何時もより口数が少ないが、料理を褒めることは忘れない。 「煮物っていいよね……」 人参に箸を付けながらしみじみ言うと、キョーコがはにかんだ。 バレンタインか。と、蓮は小さくため息を吐く。もうすぐあちらではチョコレート料理がクーの胃袋を満たす事だろう。 ジュリエナのお手製に比べて、キョーコの料理は美味しいから、食べる幸せを感じる。 「少し固かったかもって心配したんですけど、良かったです」 ホッとしたように胸をなで下ろしたキョーコに、思い出しに歪む顔を見られたのではと心配させた事を反省し、話を切り替える。 「随分忙しそうにしてたけど、今日の撮影押したの?」 「いいえ、少し早いぐらいでしたけど……時間が空いてしまうと欲が出てしまって//////」 今度はキョーコが苦笑いを浮かべている。蓮の眉根が少し寄った。 「欲って……もしかして義理増やしたの?」 2文字を強調した事で漸く理解したらしいキョーコは、挙動不審な百面相を繰り返すと、一度深呼吸して項垂れた。どうやら、地のキョーコが降臨するらしい。 「帰ってからの蓮のニセ紳士スマイル……って、それが原因だったのね」 「一応付き合ってからの初めてのバレンタインだし……このまま、降りそうな雪で閉ざして、ここから出したくないって思うほどに独り占めしたいんだけど」 神々スマイルの降臨に、持っていた箸が床にまで滑るように音を立てるその僅かな瞬間で、顔を真っ赤にしてキョーコは惚けてしまった。
食事の後片付けの為キョーコはキッチンに立ち、蓮は食器を運ぶ。 こっそりと茶色いミニマドレーヌをつまむと、カリッとしてて食感が楽しい。 不意に背後から抱きつくと、キョーコはビクッと肩を上げる。その反応は拒絶ではなく未だ慣れないだけらしい。 現に顔は真っ赤でとても初々しく可愛い。 ぷるぷるするキョーコが可哀想なので、蓮はそっと離す。キョーコは水を止めると振り返った。 「///私……自身は用意してないですよ。明日は早くから事務所へ伺う予定ですし…学校終わったら//////」 綺麗すぎるほどの顔が近づいてきて、啄むだけの軽いキスが降ってくる。 その先を諦めて、ゴニョゴニョと言葉にならない声をあげながら、更に頬を熟れさせると、同じ理由から蓮は冗談で流した。 「何処かの施設みたいにチョコレートのお風呂に入れて、君をチョコレートフォンデュに出来たら間違いなく食べちゃうけどね」 そういった瞳が笑ってないことに気付いたキョーコは苦笑いを浮かべるしかない。 確実に怒ってる。魔王レベルにほど遠いけれど、あれは間違いなく……。 そう確信したキョーコは、どうやって宥めようかと思考を巡らす。このままではのせられて帝王様が降臨されてはかなわない。反射的に腕を伸ばして、距離を保つ。 キョーコは未だ嫉妬という感情を理解しがたい。レイノといい尚といいあの手の直情径行と混同するからだろう。 思い切ってと言うよりは、今の状況を打破すべく思いつきで蓮に話しかけた。 「蓮の分は何日も前からブランデーに漬けたし、社長の数分グランマニエに浸したのとは準備が……」 って、何訳分からない事を口走ってるのかしら!!!と慌てて口を塞いだため更に距離が縮まる。押しのけていた腕がなくなったからだ。 こういうときに、この身長差は恨めしい。 全然懐から逃げることが出来ないのだ。 「キョーコちゃん……」 耳に囁かれると心地よくて酔ってしまう声が懐かしい響きで名前を呼ぶ。 その時、キョーコは白旗を揚げた。
冷蔵庫にはラップを掛けたままの真っ黒なマドレーヌ生地が寝かされたまま。 硬い生地は、焼かれるのを何時までも待ちわびていた。
蓮は幾つものキョーコの鍵を開ける。 空っぽだった心は満たされて、それなくしては生きられないくらいどっぷりと嵌っている事に、躊躇を憶えていたが、網の上に一杯の一口サイズのマドレーヌみたいに、心に降り積もる想いは酷く甘くて心地よい。
その中の5コだけが真っ黒だった。
あのマドレーヌが茶色い中に巣くう黒に思えて、何時ものように夜中のキョーコに話しかける。 「もしかしたら、オレの感情を吸ったあの石が、キョーコに復讐心を植え付けた……力を貸したかもしれない……ずっと、思ってたんだ」 「……だとしたら、クオンが浄化してくれるからいいよ」 夜中、微睡みに沈み込むキョーコに独白すれば、珍しく返ってきた答え。 蓮はそんなキョーコを包み込むようにして眠りにつく。 何時もこの時のキョーコは酔っている時と同じみたいに記憶に残らない。 きっと、起きたら忘れているだろう。 蓮も何故口に出すのか分からない事ばかり囁くのだから、それで良いと思う。 蓮だけの密かな秘め事で良いと。
携帯が鳴った。 5回のコール音が終わって、留守番サービスになったためか、音楽は良いところで切れた。 今度は別の場所からバイブの振動音が聞こえる。 蓮は寒さにのろのろとベッドから這い出ると、心の中で数を数えながら開き、少し慌てて通話ボタンを押した。 時間を確認するため、カーテンを少し開けば、暗く閉ざされた外は雪だった。一面真っ白に染め上げている。 一瞬、子供の頃にクーが話していた狐の話を思い出した蓮は目を細める。 「……はい、もしもし。お早う御座います社さん」 「お早う蓮。外雪だから今日は車出さないでタクシーだから待ってろよ。迎えに行くからさ……で、キョーコちゃんは、今日学校だよね。少し早く向かって途中で下ろす?」 「お願いします」 妙にテンションの高い社のにたにたした姿が垣間見える携帯をそう言って切ると、まどろみを彷徨っていたキョーコが目を覚ました。 蓮は自身の携帯を閉じると、愛しそうにもぞもぞと動く方を振り返った。 「……お早う蓮」 寝ぼけたキョーコは起き上がると無意識に目をこすった。 口角を上げて答えると、快活な常とは違うテンポで会話が進む。 「お早うキョーコ。外は雪だよ。車にチェーン巻こうかと思う前に、ストップかかったから。タクシーで学校に送るよ」 「有り難う……」 真っ暗なままの室内は寒い。キョーコは布団に再度潜り込む。 「今何時ですか?」 「7時回ったところだよ」 キョーコはガバッと起き上がると、バスルームへ駆け込んだ。 蓮は何時もの朝の光景に、クスクスと笑うだけだった。
カーテンを引くと、真っ白な雪景色が広がっている。 仄かに薄暗いそれを眺めながら、今夜のプランを考えていた。
入れ替わりに、シャワーを浴びた蓮がリビングへ来ると、オーブンが稼働しているらしく、6分で焼き上がるマドレーヌが焼き上がったところだった。
昨日、5コだった真っ黒なマドレーヌが段々増える。 作り置きの朝食をテーブルに並べながら、「間に合わない!」と連呼するキョーコに提案をした。
「オレとキョーコの関係はまだ秘密だから……今年はバレンタインじゃなくて、お菓子の日にしない?」 「でも、焼いちゃいましたよ……」 「大丈夫。キョーコの手作りを美味しく頂くために、エージレス買ってあるから。去年はホワイトデーに不相応な品々を頂いてしまったって言ってたし。お菓子の日なら差し入れだし。特別な意味はないよ」 慌てているキョーコにニセ紳士スマイルは見破れないだろう。 真っ白なエプロン姿のキョーコが蓮の顔を見て、小首をかしげる。 蓮は大きく何度も頷きながら肯定した。 「大丈夫でしょうか?」 「大丈夫大丈夫」 まんまと丸め込んだ蓮は焼きたてのカリッとしたマドレーヌをつまんだ。
昨日の蜂蜜入りのアーモンドパウダーが入った茶色は香しい香りを放ち甘かったが、黒はブラックココアがアクセントになって大人の味をしている。
義理でも勘違いされたら困ると、蓮はしてやったりだったのだが、 「差し入れだったらもっと作らなければですよね」と漏らした言葉を逃すことはなかった。 社に夜に間に合うように2段で焼ける分の型を追加で購入させたのは言うまでもない。
あとがき
本当は1週間前にUP予定だったのですが、諸事情で書けなかったので、1週間遅れのUPです。 そして、呪い部分が10行足らずだったので、何時か改訂稿にはしたいですが、スキビメインではないので……。 そう、スキビ書くのは初です。そして、もっとシリアスネタだったのに、驚くほどに甘いです。 自分で吃驚です。 それも来れも、全部Rosa caninaの所為です。eine wilde Roseがあまりにもシリアス展開だから……。
何日かに分けて書いていたので、繋がりとかやばいかもです。
「chocolate lilly」は、黒百合なので花言葉は、恋・呪いだそうです。 5号の鍵が外れるシーンで思ったのが、 レイノ曰くコーンがクオンの感情を吸って禍々しいのなら、キョーコが尚の恋に破れて負の感情を芽生えさせたとき、怨キョを生み出す手助けをしたのがコーンなのではないか? 負の増幅器? だから、蓮の神々スマイルで、怨キョは浄化される。 つまり、クオン=蓮が幸せを感じるから浄化されるのかなとか思ったわけですよ。
6号の展開には吃驚だったのですが……。 素敵キョーコを籠絡して下さい敦賀さん。
なので、6号までにUPしたかったな……なSSでした。
ここから先は、遅くなったサイト更新報告。 2月15日お菓子の日に、Rosa canina 更新済みです。
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2011年 3月20日 |
スキビSS「オムライスの秘密」 外は春何番か凄い風が吹き荒れてて、テレビでは花粉情報が流れている。 パステルカラーの小物が、あちらこちらに鎮座するリビングで、お腹を空かせた子供が、「パパまだぁ?」とふて腐れた声を上げた。 ここ数日、社長の家に預けられていて、久々の休日の蓮を独占できる数少ないチャンスに、子供ははしゃぎ周り、昼食が予定より少し遅れたのだ。 「出来たよ、手を洗っておいで」 「はーい!」 似合わないエプロン姿の蓮がキッチンから声を掛けると、座っていたソファーから飛び降り、子供は洗面所に向かった。自分専用の熊の形した台を引き摺る音が聞こえ、蓮は微笑んだ。 すぐにとてとてと音を立てて、満面の笑みで走ってきた子供を抱き上げると、子供用の椅子に座らせる。 「パパ、だいじょうぶ?」 少し見た目の悪いオムライスを前にして、首を傾げる我が子に、苦笑いで返す。 普段完璧なまでのキョーコの料理を食べている子供には、ジュリエナの料理なんて一度も口にしたことが無く、預けられれば所長宅なので、口も見た目もこえているのだ。 「ほら、トワ。ケチャップでパパの分もお願いできるかな?」 何時もの儀式に「しかたないな~」と偉そうに答えるトワ。 大きなケチャップを抱えて、一仕事である。 並べられた全然大きさの違うオムライスに、自分のには覚えたてのひらがなでとわと書き、蓮のには大きなハートを描く。 何時もキョーコはハートを描く。機嫌が良いと似顔絵を描くこともあるが、名前が多い。 「凄い!トワ字が書けるようになったんだね」 「マリアおねえちゃんにおそわったんだ」 褒められて嬉しそうに胸を張るトワの頭を撫でながら、蓮は向かいの席に座った。 すると、トワはジーッと目の前のオムライスを眺めている。 キョーコみたいにスープや飾り切りした野菜なんて無くて、オムライスとオレンジジュース。ちぎっただけの野菜サラダのお子様ランチだ。 蓮はジュースの代わりに、ミネラルウォーターをグラスに注いだだけ。 あんなに不味いオムライスを前にしたキョーコより、子供の方がストレートな分シビアだ。 「これは、マウイオムライス改だから、味は保証するよ//////」 クスクスと思い出し笑いを浮かべる蓮を、口をへの字に曲げながら訝しげに見つめると、大丈夫という意味の頷きを得て、専用のスプーンを握りしめる。 黄色いキリンのスプーンがおそるおそるふわふわの卵を突き破り、中の具を捕らえる。 「パパのオムライスえびがはいってる!」 途端にはしゃぎだして、一口。 「ママと同じ味がするね」 と、トワは言う。 それもその筈だ。何度も何度も傍らでキョーコが蓮のために作ったオムライス。 覚えた本当の作り方。具材はあの時と同じ。 キョーコが作るオムライスも節目節目この食材で作ってくれた。 そうか、トワは食べたことがなかったのか。 「食べたらママの所行こうか」 「いく!!!」 トワは満面の笑みで答えた。一杯口の周りにチキンライスを付けて。 嬉しそうに平らげるトワを見ていると、蓮自身もつられて食べてしまう。 ちょっとの間に、子供の成長は早いなと見ていると、先に食べ終わったトワは、ねだって椅子から下ろして貰うと、リビングから何かを持ってきて差し出した。 「パパ、デザートたべる?」 黄色くて可愛いバナナを「有り難う」と受け取った蓮。 其処には、ケチャップではないけど、名前とハートが描かれていた。 同じ仕様のバナナを不器用に剥くトワを眺める。 「はやく、パパもたべるの!」 急かされて、バナナを味わった。 成長具合にちょっと凹んでいた蓮の心は浮上する。 何時も何時もキョーコは、一杯の愛を与えてくれる。 きっと、オムライスを作ると悟っていたのだろう。 念願のハリウッドでクーとの共演のオファーが来ているから。 だから、一杯有り難うと愛してるを言いに行こう。 トワの手を繋いで、蓮は家を後にした。 紅梅は縁起良く咲き乱れ、早咲きの桜が花びらを舞わせ、緋寒桜が凛と咲く季節。 芽吹き始める春をキャンバスにした窓を横に、キョーコは微笑んで待っていた。 あとがき 旅行中止で時間がとれたので、あくまで夜中に「Rosa multiflora」の加筆作業に取りかかって逃げました。(;^_^A だって、蘭嫌いだもん。 ずっ~と、書きたかったネタです。オムライス登場時から。 コミックスで読めばあっという間かも知れませんが、本誌派からすれば、キョーコちゃん爆弾発言までが長いです。 すっかり、このブログはスキビ用になり果ててしまうような危惧に瀕しております。
蓮と子供の話なので、もはや趣味です。 名前は久遠から連想して永遠(永久)です。安易。漢字はどっちでも良いかなと思う。 だって、どっちも一字貰うし……。 多分って言うか男の子です。
んで、多分次は女の子でしょう。トワが女の子だと、ジュリエナさんがねぇ。やっぱりマリアちゃんがいいかなぁ~って何が?子守。
タイトルからずれた。秘密が好きって事にして下さい。 後、節目の一つはプロポーズ時だと想像。
萌え補給しまくりの春に。
ciel
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2011年 |
Rosa multiflora Nyx版 ※このお話は、新志・コ哀です。原作CPではありません!!! ティエラテールと呼ばれる世界には7つの大陸がかつてあった。 聖霊を神と崇め、其処からもたらされる知識、即ち魔方陣を描き、限られた人々は色々と非現実的に手にした。魔導師と呼ばれる其の者達は、自らの欲のためではなく、大衆のために使う。 それがこの世界のルールだった。
“汝これを忘れるべからず 特別を欲で支配してはならない 汝これを忘れるべからず 在るものは無いもののために 有るものは無いもののために ないものは相当の代価であるものに還元されるものである 互いに欲を求めてはならない 世界は無限の輪で出来ているものなり それを忘れたとき、世界は終わる“
しかし、色で呼ばれる大陸は、それぞれに発展し栄華を極めて行くにつれて、愚かにも戦争を繰り返した。 聖霊は嘆き悲しみ、この世界から旅立ち始めた。 すると、国々は挙って魔導師に聖霊を繋ぎ止める術を研究させたのである。 膨大な月日を要してもいっこうに見つからず……。 何時しか国は守護する聖霊を失い、国すら失い世界だけになった。
崇拝すら捨て、魔法世界から科学へとシフトし、平和だった世界には不穏という言葉が生まれ、殺伐的になり、混沌して荒廃していく。 そして、爆弾開発の際偶然に見いだした紅い結晶が運命を変えた。
屍処理の爆弾魔方陣……それを発動し対価として得た紅い結晶。 それを実験で飲み込まされた7人の魔導師は、国を統べる力を得た。 即ち、ティエラテールおいて初めて聖霊を使役=契約を交わしたのである。 もはや、死者への労りすらない行為をする者達にとって、同族すらモルモットだったのだ。 紅い結晶の魔方陣は7つに分けられ、7人の聖霊が飲み込み封印された。 これにより、ティエラテールから使役の魔方陣は消え、 そして、現在残る大陸のうち紅と蒼だけが初代(聖霊を使役者)が聖霊と結婚したとされるのである。本来は白の大陸を含めて3大陸存在したのだが、無益な争いの中で忽然と姿を消したのだった。 それにより、すべての知識は揃うことなく、欠落したのである。
ティエラテールと呼ばれる世界には、7つの大陸があり、それと同じ数だけの王国があった。 しかし、時を遡ること数千年前、忽然としてエストレージャが消えたのだ。 かといって、その領域は虚無でも何も無い訳でもなく、1部の領土があるとされている。 何故に曖昧なのか。それは、そこが結界で閉ざされたままだからである。
歴史書によれば、大陸を超えての侵略行為からの自己防衛、もしくは聖霊の暴走・抗争ではないかと記述されているが、残りの6大陸はその事を隠匿し、現在ではごく限られた者しか知らない事実である。
そして、大陸は消滅を繰り返し、今もまた繰り返そうとしている……。
今では歴史書に大陸について記述しようものならこうなる。
紅は聖霊の血が濃く自らも精霊の力を得ている吸血鬼と呼ばれる夜の一族が統べる大陸。 蒼は7王家が分散し、6つの国からなる。主王家には代々聖霊使役者が居る。 白は数千年前にこの世界を立ち、今はアステールと名を変えて別世界に存在する。 菫は白と同く移ろうとして失敗し、翠と戦争を起こし共に消失。 翠は菫との戦争で消失。僅かな民は蒼へと逃れる。 茜は消滅し、民は紅に移住し、今は新民と呼ばれている。愚かにも聖霊を喰らい消失。 黄は黒に滅ぼされた。しかし聖霊は契約を拒み、逃げ出した。 蒼の花香5カ国でしかなかった黒は黄の大陸を得、黒と名を改める。
黒は過去魔方陣研究より化学を極め、そして聖霊を逃し戦争に走る。黄という大陸を滅ぼし、世界を混沌させた。今は躍起になって聖霊を求め、魔方陣研究に秀でる。 そして、花香5カ国から外され、聖霊により追い出された。
聖霊は間違えた。 紅い結晶が7つなのが、そもそも間違えだったのだ。 虹は七色と謳われるが、実際6色から構成されている通り、神たる聖霊の下に6聖霊が集えばよかったと、悔いる。
今となっては詮無きことである……。
***あとがき***
加筆前の過去史です。分離前に巡りのNyxni載せてました。 次も加筆前の話。 何故にこれを此処に上げるかというと、27日の更新は、ボツ版にしようと思ったからです。 このままだと、アヤがいじめられっ子になっちゃうぜ!って。 つ・ま・り、書き直し中です。遅遅として進まないのですがヽ(;´Д`)ノ なので、この記事たちを消すために、27日中に何か記事を書かなければ。 向こうのBLOGの流れちゃった昔のSSにしようかな。 カテゴリー出来ないからあっち。
ファンタジーなコナンです。そして、新志・コ哀です。
Ciel
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2011年 3月27日 |
Rosa multiflora Nyx版 1話「仮初めの花嫁」 新緑と呼ぶに相応しい暖かで花々が咲き乱れる佳き日に、ベールを深々と被った公主が輿からクルールリトスの地に降り立った。 ティエラテールの国同士の結婚には、花嫁は自国の王城から嫁ぐ国の王城まで決して、地に足を付けてはならないと云う習わしがある。 これは混沌期、他国の民を喰らった聖霊が居た所以であるが、今も尚残る風習で、それに習い、微笑めば名の通り白く気高い蘭の様、動けば快活と謳われるルアンクインの世継ぎの公主、ルアンクイン=マリカ=オルキデ・アルヒデーヤ・ランは、隣国で自国とは雲泥の差の大国の主城に隣接する迎賓館に降り立ったのだ。 コンコン―――。 重厚なドアがノックされる音を聞いて、窓の外を眺めていた黒髪に色白の青年は、傍らの浅黒い肌の同じ年頃の青年と顔を見合わせると、ゆっくりとドアに視線を向けた。 「入れ」 威厳にあふれた声がドアの向こう側まで抜け両側に控えていた兵が、すっと音も立てずに開け放つと、トレードマークの帽子をとった小太りの中年男性が一礼の後、青年たちに告げた。 「殿下、ルアンクインの公主がお着きになりました。例の件ですが、四君子の春に間違い御座いません」 その報告を聞いて互いに見合わせて、ため息を1つ吐くと、苦笑いを浮かべた。 先に口を開いたのは色黒の青年の方で、その後方からまっすぐ見据えて、命を下した色白の青年は、最後クスッと笑って見せた。 「報告、ご苦労さん。もう、下がってええで」 「引き続き、警護は緩めずに細心の注意を」 「御意」 自分より二回りも年下の青年たちに、深々とお辞儀をすると、それを合図に重厚な扉は閉じられた。 「なぁ、オクルスのおっさんに其処まで調べさせるんは、やり過ぎやったか?」 「いや、ルアンクインのあの女王が替え玉を寄越すとは思えないが、道中が長いからな。国の最深部に入るには、もってこいの人物だから、当然だろ。喩え近衛のあのオルクスでも、意外な人物の方が悟られにくいからな」 会話中背にしていた窓の外をもう1度双眼鏡片手に見れば、遠くの迎賓館への人の列は途絶えつつあった。 一応、クルールリトスからは、正式には国家警備隊を派遣しており、体裁は整えていたが、一癖も二癖もある連中である。自らの懐からの人間の方が信用がおけるというものだ。 そう大した行列ではなかったことが伺え、密かに近衛隊長であるオルクスらを付けていて正解だったと確信した。 何故ならば、ルアンクインからの道のりはたやすいものではないからであった。 ルアンクインの王都は蒼の大陸の北北西に位置し、それはクルールリトス王都主城からも 取り囲む王国へと伸びていて、それらは、必ず各国の王都へと繋がっており、遠い彼の地から嫁いできたランもこの街道を通り1ヶ月かけて来たのである。 宿では、鈍らないようにと入念に部屋でストレッチを行う程度しか出来なかったが、着いた今となっては、大地を踏みしめることも駆けずり回ることも可能である。 見上げた空は蒼く、何処までも澄んでいた。 出迎えたのは女官長と女官、近衛と僅かに3人。幾重の門を潜る度出迎える人々は増え、通された迎賓館で、出迎えた女官は、「本日はお疲れでしょうから、明日正式なご挨拶を申し上げます」と告げ、すっと消えてしまった。 花燭の儀を終えるまでは、皇太子の離宮に入ることは叶わない。 雨期の神の恵みの日を待ってここで暮らすのである。何時来るか分からない、しとしと降る時期の1回の奇跡“スコール”待ち。1ヶ月の長旅を終えたランにとっては、更に試練が続く。 一日千秋の思いで待つランは花燭の儀について思い出していた。 神の恵みの日、巫女の前で聖霊の涙を互いに飲み干し、互いの血を胸に塗り婚姻成立となる。 その昔、互いの胸にキスを交わし、結婚の誓約としていた頃もあるが、一夫一妻ではない王族は、血での盟約へと変え、聖霊に誓いを立てた。 ランの母たるエリィは、夫の浮気癖に辟易して、本来の結婚の誓約を無理矢理交わさせたので見せる何処でフラフラしていても、内心は安心していた。 激しい気性たる女王もこの夫の前では、可愛らしい一面を見せる。 ランは今、幸せの絶頂だった。 世継ぎたる姫の身でありながら、6王家の親友で向学心旺盛なコンヴァラリア=トゥ=マイウ・ヴァリー・ソノコでも、才女と謳われるフィオーレ=ディ=チリエージョ・マルガリートゥム・シホでもなく、武芸と言う公主らしからぬものに秀でた自分が選ばれたことを感謝していた。 前に何度か逢ったことのある“幼なじみ”で憧れの王子様に嫁ぐことが出来るのだから。 それは、つかの間の夢に等しいことだとは、露程にも思わずに……。 くせ者のクルールリトス王は、幾重にも物語を描いていたことを、誰一人として見抜けた者は居なかった。 年に何度か開かれる会議に出席していた、ルアンクインの女王は、他家からの申し出に憤りを隠せずに、細い眉根をひくひくさせながら、問うた。 「先ほど、なんと申されたか、もう1度お願いできますか?」 「ですから、主家たるクルールリトスの唯一の直系王族、皇太子にそなたの娘を皇太子妃として嫁がせよと言ったまでだが、なんぞ不服でもあるのかな?」 「ありがたい申し出では御座いますが、当方の娘は世継ぎ。強いては小国ながらも女王として納める唯一の娘で御座います。年頃の姫ならば、コンヴァラリアの2番目の公主やフィオーレの第2皇女が居られるではありませんか」 ルアンクインの女王エリィは、クルールリトスの長老と呼ばれる重鎮達と花香5カ国の他3国の王達の命令に、声を荒げていた。 蒼の大陸には、かつてクルールと言う大国1つのみで、7王家から排出されたリトス王家が治める、水に恵まれた王国だった。しかし、リトスの血脈は黒の大陸の王国の罠に嵌められて惨殺。皇太子は幽閉され、血は途絶えた。代わってカルブンクスル王家が納めるのと同時に7王家は解散し、6つの国に分離した。 独自に領地=国を治めるも、主家としてクルールリトスは珍重されており、大陸の半分を占める中心地と言うこともあり、今も国どうしの会議は東都のアジュール城で行われる。 今回の会議は、ディアントゥース、コンヴァラリア、シュヴァル、そして、ルアンクインとクルールリトスの重鎮という組み合わせで、主家の王は不在、フィオーレの王代理の宰相の姿もない。何ともルアンクインの女王を軽んじたものであった。 「主家に嫁がせるのに、2番目では拙かろうて。これは、皇太子が1歳の誕生日に決まっていたこと」 「別にシホ皇女なら申し分ないと思われますが」 参加していないフィオーレの姫の名を口にするが、食ってかかったところで分が悪く、歯ぎしりをしたい気分だった。 軽んじられたルアンクインではなく、唯一リトス王家の血を色濃く引き継ぐフィオーレならば、喩え第2皇女でも、“公”ではなく“皇”と称することが許されている以上、格差はない。なのに、淡々と威圧感だけは漂わせて、報告みたいに告げられると不快この上ない。 「これは、決まったことですぞ」 「ならば、こちらのことを鑑みてアヤコ公主がご結婚なさる前に、嫁がせていれば良かったではありませんか。嫋やかな方で申し分なかったと思われますけど」 「ラン公主殿も似た性格をなさっておいででしょう。それに、アヤコ公主がオルタンシアの第3王子を婿に貰ってくれたお陰で、どっちつかずのあの国を捕まえることが出来たのです」 「それは……。では、フィオーレは見捨てて、我が国をも捨て置きでは国は更に分裂するのではないでしょうか?」 冷徹だと恐れられる瞳は、必然とコンヴァラリアの王へと向いた。 ルアンクインとフィオーレの間にあるコンヴァラリアはクルールリトス東領として東海岸の半分を手放しはせど、鉱山などの資源に恵まれ、豊かな国である。だから、此度の金でものを言わせたオルタンシアとの結びつきも可能であったが、コンヴァラリアはフィオーレを見捨てている。それはシュヴァルも同じ。 これで、何かルアンクインにあろうものなら、この2国は見捨てるだろう。 だから、えせら笑いながら、こんな事を言えるのだと、女王は思った。本当、男って云う人種は……つい、癖で額を押さえる。 「姫の1人そちらによこせば問題ないでしょう。まだ、貴女も若いのだから」 「此度のことは皇太子殿下も望まれてのことです。昔何度か遊ばれたことがあるとか何とか」 そう、他家の王達は口々に主張し、エリィは豪奢なだけの椅子に崩れるようにして座り込んだ。それを見て、王達はパイプに手を伸ばす。 その姿を見て、悔しくて悔しくて、腸が煮えくりかえるのを必死に表に出さない様、消沈を装うしか出来ない。 資源に乏しい小国が幾ら反論したところで、どうにもならないことなのだろう。 ルアンクインには世継ぎはランしかいない。いざとなったら嫁いだ末妹を呼び戻さねばならないとか、考えることだけでも山住だった。 エリィは疲れ果てて国に帰り着き、ランを直ぐさま呼びつけ、事の顛末を話した。 ランは肝が据わっているのか、あっけらかんとした様子で頷き、あれよあれよという間に、嫁ぐ日が来たのだった。 「あの子は……本当に理解しているのかしら?」 女王は一抹の不安を覚えこめかみを押さえた。 ***あとがき*** 続き及び加筆版は「Rosa canina」 にあります。 BLOGでの次回の更新は、仮初めの花嫁1-7です。 4月の半ばにボツ版1-8を予定。ボツが先行するとは思わなかったよ(°д°;) エリィは「妃 英理」の事です。カタカナの羅列に可愛さを求めてしまいました。 どうでも良いことですが。 サクラの日、更新頑張るぜぇ~! Ciel |
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